特別記事「間違えやすい言葉」

小説

written by 匝

1. 創作物の校正時に見つかる言葉の間違いについて

創作物の校正――尤も私のそれは単なる素人校正なのですが――をしていると、言葉の間違いが結構見付かります。

単純なタイピングミス、漢数字とアラビア数字の不統一(個人的な基準としては、熟語の数字は漢数字にすべきだと思います。「一致」とか「四面楚歌」とか)、まあこの辺は作者と相談した上で訂正して行けば良いのですが、他に目立つのが慣用句の誤用です。

具体的に見ていきましょう。

2. 「慣用句」の使い方におけるよくある間違い

慣用句の意味は搖れています。

例えば「敷居が高い」は「不義理や面目のないことがあって、その家に行きにくい」が本義なのですが(「敷居」は門の内外を区切るための横木、また、引き戸や障子などの開閉のための溝のある横木のこと。

要するに、敷居が「物理的に」高くなるはずがないのです)、今ではこの意味で使う人はほとんどおらず、「高級過ぎて入りにくい」・「難し過ぎて入りにくい」、つまり「ハードルが高い」の意味で用いられることがずっと多いのです。

「ハードル」が横文字であるために何となくファンタジー作品で使いにくく、「良く知らないけど漢字だから」と「敷居」で代用しようとする人もあるいはいるかも知れません。(とはいえこれは定着しつつあるし、妙なことに上手い言い換えが出て来ない困った慣用句です。大抵の場合は「ハードルが高い」で済ませられるのですが……。

また最近知ったのですが「敷居が低い」という表現もあるそうですね)また、「役不足」も誤用の代表例と云えます。これは「役柄が演者の力量と比べて見劣りする」という意味で、決して「演者にこの役は果たせない」という意味ではありません。この意味では「力不足」とするべきです。「力不足」が安直に見えるので、字面の似ている「役不足」で代用しようとするのかもしれませんが、誤用で文意が乱れれば受け手に無用な負担を掛けることになります。

3. 言葉遣いの間違いについての所感

「言葉は変わるもの」ですから、解釈の辻褄を合わせれば「敷居」でも「役不足」でも良いのではないかと思うかも知れませんが、この言葉を盾に一切の誤用を誤用と認めまいとすれば、言葉は崩壊します。

雰囲気だけの平板な話がしたいだけならともかく、ちょっと難しい話をしようとするともう役に立たなくなる。それでは行けません。

あんまり窮屈かつ厳密にやり過ぎればものを書くのもほとんど不可能となってしまいますが、その反動で一切適当にいい加減にやられるのも同じくらい迷惑です。

私案ですが、取り敢えず作品を書き上げてみて、それから意味が摑めていない言葉を見掛けたら辞書を引いてみるようにすると良いかと思います。

心理的な圧力が比較的少なく済みますし、受け手に対する義理をいくらかは果たせます。

因みに云うと、昨今では○○警察と呼ばれる人間が喧喧囂囂することも珍しくありませんが、大抵の場合は「穿ち過ぎて」いるだけで有害無益と云えます。

校正者の病として、私自身も彼等に近い存在になってしまいがちなのですが、他人の無知無学を嗤うだけの存在に成り下がるまいと思っています。

4. 最後に

ものを「穿った」見方で眺めるのは大事なことですが、それも「過ぎれば」無駄なのです。

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事一覧