Arts of Shikiangi 温泉担当がオススメするニッポンの温泉2(全国編)

旅紀行, 身近な話題

 

こんにちは。Arts of Shikinagi 温泉担当のとーますです。

前回のブログでは、やや堅苦しいお話をしましたが、今回は筆者がお薦めする全国の温泉を紹介したいと思います!

《1.北の果てに硫黄の香りを求めて… 下風呂温泉郷(青森県)》

青森県は下北半島の北部、風間浦村にある温泉郷です。

「ああ、湯が滲みて来る。本州の、北の果ての海っぱたで、雪降り積る温泉旅館の浴槽に沈んで、俺はいま硫黄の匂いを嗅いでいる。」

井上靖の小説「海峡」の一説に出てくるこの温泉はここのこと。

寒いところには寒い時期に行くべし―。日本全国を旅した筆者の持論により、この地に来たのは2月の上旬。当初乗った飛行機が地吹雪のため三沢空港に着陸できず羽田へ引き返し、再度午後の便で三沢へ挑戦するような天気の日でした。
三沢空港からは車で約2時間半、公共交通なら青森駅から約2時間の下北駅で降り、さらにバスで1時間…。山と海に挟まれた、小さな漁村に位置する小さな温泉郷です。数件の温泉宿のほかに、大湯・新湯と呼ばれる公衆浴場もあります。(私が訪ねたときは新たな施設を建築中でした。)

国道に沿うように温泉街が形成されている

下北半島には、ほかに湯野川温泉や大間温泉などが知られていますが、下風呂温泉は意外にも室町時代から知られた湯治場で、源泉井戸も3系統4本あり、それぞれに泉質が異なります。

筆者のお勧めは温泉宿としては唯一海辺地2号源泉を使用している「つるやさつき荘」さん。
海辺地2号は下風呂温泉の中で最も硫黄分が濃く白濁系の井戸で、そのお湯は濃いながらも優しい肌触り。泉温はやや熱め。外が強烈に寒かったこともあり、熱さが身に沁みます。ご主人の話によると日によって濁りの色具合が異なるとか。

温泉はもとより、宿もご主人の人柄や料理も素晴らしい(朝食からイカのお刺身を頂けたのはテンション上がりました)。

下風呂温泉郷 青森県風間浦村商工会青年部

《2.かけ流しではないもう一つの「本物」を探して 大湯温泉(秋田県)》

大湯温泉は秋田県鹿角市の温泉です。

大湯温泉、あるいは大湯という地名は全国各地に存在しているうえに、その歴史は大抵それなりにあります。その名の通り、湯の大元(=湯本)であることに由来しているのでしょう。

昨今、地方の、交通の脆弱な地域の温泉街は廃墟然としてしまう所もある中、この秋田県の大湯温泉については複数の温泉旅館と共同浴場を有する「大湯」の名に恥じない実にしっかりした温泉街です。

この中で筆者が特にお勧めしたいのは温泉街の最奥に位置する「荒瀬共同浴場」です。道中には特に何の案内もなく、建物もそっけない年季の入ったその佇まいは、正に地元の人用の公衆浴場。120円で切符を買い、番台のおばあさん(※)にそれを渡すも、生まれも育ちも東京の私には秋田弁でのコミュニケーションは困難を極めます。
浴室も公衆浴場の期待を裏切らず、8畳ほどの空間に2畳半ほどの浴槽が掘り下げられているのみの実に簡素な構成です。

ではなぜ筆者はこんな変哲もない共同浴場を勧めるのでしょうか。

皆さんも浴室に入ったらぜひ見渡してほしいのです。どこから湯が出ているのかを。温泉には通常湯が注がれる湯口がつきものですが、この温泉には見受けられないのです。なのに湯船から湯はとうとうと溢れているのです。
そう、これは湯底の石のタイルの隙間(※)から湯が湧き出ている…源泉かけ流しならぬ「源泉湧き流し」の温泉なのです。

足下から自噴・湧出する温泉は北海道の丸駒温泉や青森の蔦温泉、鹿児島の湯川内温泉など枚挙に暇がないものですが、共同浴場でこれを味わえるというのは実に贅沢なものではないでしょうか。

その湯は無色透明の塩化ナトリウム系の泉質ですが如何せん熱い。 源泉直上ですから、自然は人間の適温など勘案してはくれません。体感ですがおそらく48℃くらいあるのではないかと思います。東京の銭湯の熱湯よりも遥かに熱いです。

湯を出たらぜひ温泉街を歩きましょう。草津のような煌びやかな温泉街ではないですが、いたるところに洗濯や野菜を洗うために利用する「汲み湯場」と呼ばれる温泉の井戸があり、温泉が生活の一部になっている風景は風情があります。

※この記事を書くにあたり調べたところ、番台は無人化し、湯底はすのこ張りになったようです。

大湯温泉観光協会

《3.これは温泉のブレンドスパイスだ 七味温泉(長野県)》

七味温泉は長野県の高山村に位置する温泉です。

世界水準の山岳高原観光地を標榜する長野県は、温泉も豊富です。

山あるところに活断層あり。活断層あるところに温泉あり―。そして、辺鄙なところにある温泉ほど薬効があり有り難い温泉である・・・。そう信じてやまない筆者にとって、長野県は温泉の聖地であります。そんな長野県の中でも、群馬県境に位置するかなり辺鄙な高山村(ネット上でグンマーのネタになる「この先群馬県。立ち入り禁止」の看板があるところだ!)の七味温泉は松川渓谷の一番奥にある閑静な温泉地です。温泉宿は三件あり、いずれも日帰り入浴が可能です。
七味温泉の名の通り、古くは七つの源泉を各宿が独自に混ぜて使っていたようで、現在でも宿によって温泉の質が異なる点は楽しみの一つでしょう。

ここはいずれの温泉も素晴らしいのですが、初めて行く場合のお勧めは「紅葉館」さん。基本の内湯と外湯は低張性の硫黄泉で、色味は白みがかったエメラルドグリーンといったところ。隣のホテル「渓山亭」さんが運営する「恵の湯」は白みがかったターコイズブルーなのでその対比も面白いです。変わり種としてあるもう一つの外湯「黒湯」は二つの源泉をブレンドしたもの。それぞれは白濁と透明の温泉なのですが、混ざった途端化学反応によって黒く変色するという箱根の黒卵的な温泉です。
そして何より、山懐に抱かれて山と硫黄の香りを嗅ぎながら松川渓谷の絶景とせせらぎを目と耳で愉しむ…。この解放感こそが露天風呂・野天風呂の醍醐味と言えるでしょう。

そうそう、紅葉館に出入りするタヌキの一家にも癒されますよ。

七味温泉 信州高山村観光協会

《4.こんな温泉めったにない…っ! はやぶさ温泉(山梨県)》

はやぶさ温泉は、山梨県山梨市にある温泉施設です。

これまで紹介してきた温泉は比較的古い温泉でしたが、このはやぶさ温泉の開湯は1990年代と比較的最近の温泉です。
首都圏の好立地にも関わらず、2000年代まではあまり知られず(?)、「隼ゆら」という謎の萌えキャラを爆誕させたり、玄関口で猪の剥製と福助がお迎えしたりと、迷走するマーケティングで知る人ぞ知る温泉でしたが、近年はパッケージの旅行商品に組み入れられるなど徐々にその認知度を向上させています。

とはいえ、塩山駅を降り恵林寺の少し先にあるはやぶさ温泉に到着すると、やはり出迎えるのはインパクトある猪と福助。廊下を進むと二次元では可愛かったのに無残な姿となって爆誕した等身大隼ゆらフィギュア(興味がある人は「隼ゆら」で画像検索だ!)がデッキブラシ片手に仁王立ちして我々の行く手を阻みます。フィギュアの造形師って大事なんだなと実感。

パネルは可愛いのにフィギュアは無残なのだ。

パネルは可愛いのにフィギュアは無残なのだ。

さてさて、脱衣所につくと掲げられている文言が目につきます。

「こんな温泉めったにない!」

猪・福助・隼ゆら…、どんどんと温泉への期待値が下がり、とどめはこの自画自賛ですよ奥さん…。
しかし、浴室への扉を開けると、良い意味で期待を裏切られます。

とにかく温泉の量がすごい。湯口の鯉の口先から1.5mほど勢いよく温泉が噴出しています。

「(これは打たせ湯ではないっ! 湯口だ! 繰り返す! これは湯口だ!)」

・・・思わず心の声が漏れそうになります。
通常の温泉の注ぎ方について、トクトク、とうとう、サラサラ…などという擬音語で表現するとしたら、このはやぶさ温泉は、ダバダバ、ドバドバ、ザブザブ…といった表現がしっくりきます。
対称的に外湯は静かで屋根もあり、ぬるめの温度も相まって雨の日でも長湯が楽しめます。

そして、はやぶさ温泉で特筆すべきは、シャワーもカランも温泉だということです。
加温も加水もせず、源泉を豪快に湯船に注ぎ込み、シャワー・カランまで温泉を利用する贅沢…

たしかに、こんな温泉めったにない!

はやぶさ温泉 (HPがリニューアルされていて隼ゆらが若干リストラされているのが気になります…)

《5.温泉と麦酒はシュワシュワするほうが良い… 七里田温泉(大分県)》

七里田温泉は大分県の竹田市にある温泉です。

大分県―。別府や湯布院など世界にも名だたる温泉地を有し、源泉総数も日本一ですが、実は温泉地の数はそれほど多くはありません。

七里田温泉は由布からも豊後竹田からも車で45分ほど。
意外と山深い大分の道をのんびりひたすら走ると、温泉のマークが目印の「七里田温泉 木乃葉の湯」さんに到着します。入口にある券売機で切符を買い、いざ入浴…という段取りではありません。私の今日の目当てはここではないのです。
「木の葉の湯」の受付に切符を出すと、鍵を渡されます。

・・・RPGで重要アイテムをもらった時のようなBGMが頭の中で流れます。

鍵を手に入れたら踵を返し、お目当ての「下湯(したんゆ)」と呼ばれる共同浴場へ…。

建物はセキュリティーが厳重な昭和の民家といったところ。普通の市街地でこれがあったらちょっとヤバイ人が住んでいるのではないかと身構えるような出で立ちです。四畳半ほどの浴室は長年の温泉で析出した成分により床一面が赤茶色に染まり、中央に2畳ほどの浴槽が鎮座しています。

温泉はやや茶色がかった透明で、温度は36℃ほどのかなりぬるめの重炭酸土類泉。重炭酸、という通り、この温泉の最大の特徴は日本屈指の炭酸量を誇る温泉だということです。

湯に浸かった途端、体を覆う無数の泡。これこそが七里田温泉の最大の特徴といえるでしょう。「ラムネの湯」の異名も納得です。
発泡入浴剤にもある通り、炭酸泉とはその二酸化炭素の働きで血管が拡張し、血行が促進することにその効果が期待されているものですので、夏場などに長く浸かるには良い温度なのかもしれません。

…ですが、私が行ったのは11月下旬の風の強い日。

温泉はぬるいを越してやや冷たく感じるほどでした。だからと言って窓を閉めてはいけません。ここは日本屈指の炭酸泉。ろうそくの灯も消えてしまうほどの二酸化炭素濃度ですので、湯面ギリギリ首まで浸かったり窓を閉めたりしては、命がいくつあっても足りません・・・。

七里田温泉「木乃葉の湯」

いかがでしたでしょうか。まだまだコロナ禍で気楽に出かけることもままならない状況ですが、収束したら是非旅の参考にしてみてください。

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